パート3 偏向したセックス(性嗜好異常)の世界

パラフィリアとその心理


1. パラフィリアの概念
(1)性嗜好
 人の性のありよう、すなわちセクシュアリティを構成する要素としては、ジェンダー・アイデンティティ、性指向、性嗜好などがある。
 ジェンダー・アイデンティティとは、「自分を男性と思う」「自分を女性と思う」といった性別の自己認知のことであり、これに関する疾患として性同一性障害がある。
 性指向とは、性的魅力を感じる対象は何かということであり、異性愛、同性愛、両性愛などがある。
 性嗜好とは性的興奮を得るために、どのような好みを有しているかということであり、この性嗜好に関する疾患が、ここで述べるパラフィリアである。

(2)パラフィリア
 パラフィリアは、英語ではparaphiliaであり、para(偏倚)、philos(愛)、ila(〜の病態)を組み合わせてできたものである。  DSM-IV-TRという、米国精神医学会が定めた診断基準によれば、パラフィリアは具体的には露出症、フェティシズム、窃触症、小児性愛、性的マゾヒズム、性的サディズム、服装倒錯的フェティシズム、窃視症が挙げられている。さらに、特定不能のパラフィリアとして、電話わいせつ、死体愛、部分性愛、獣愛、糞便愛、浣腸愛、小便愛が例として挙げられている。
 
(3)パラフィリアは精神疾患か
 パラフィリアの具体例を前節で紹介したが、人間の性行動の何をもって正常とし、何をもって異常とするかは、明確に二分できるものではなくさまざまな議論が起こりうる。これまでの議論の概略を示し、パラフィリアを精神医学の中でどう位置付けるのか、その今日的理解を明らかにしたい。
a. 生殖に結びつかない性行動を異常とする
この考え方は、生殖に結びつく性行動、すなわち膣とペニスの結合のみを正常とする考え方である。例えば、1950年、著名な精神医学者であるシュナイダー(K.Schneider)は、著書の臨床精神病理学の中で「厳密にいえば、生殖を最後の目的としないものは、すべて異常であり反自然的である。いずれにしても、性的意図や欲望や行為は、それらによって生殖の行われる可能性がなければないほど、倒錯しているわけである。」と述べている。
しかし、第二次大戦後の性科学の進展により、文化によっては生殖に結びつかない性行動が異常とみなされないことや、米国人の性行動の実際が多様であることなどが明らかにされていった。また、同性愛をめぐる議論の高まりも加わり、生殖に結びつかないことのみをもって、異常とする考えはすたれていくこととなった。
b. 本人に苦痛、障害があることで疾患とする
1970年代から80年代の同性愛をめぐる議論の中で、本人が苦痛、障害を持っていることで、異常すなわち精神疾患とみなすという考えが生まれた。
たとえば、1994年に出されたDSM-IV(DSM-IV-TRの改訂前のもの)では、パラフィリアの診断基準を以下のように定めている。

基準A:少なくとも6ヶ月間にわたる、1)人間ではない対象物、2)自分自身または相手の苦痛または恥辱、または3)子供または他の同意してない人に関する強烈な性的興奮の空想、性的衝動、または行為の反復である。

基準B:行動、性的衝動、または空想は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域の機能における障害を引き起こしている。

つまり、従来とほぼ同じ異常の概念である基準Aに加えて、基準Bも満たすことで、初めて精神疾患になると規定したのである。
しかし、この診断基準は同性愛をめぐる議論と同様に、「本人が苦悩するのは、周りが異常だとレッテル張りをすることへの自然な反応ではないか」という疑問を招いた。また、同時に「性犯罪者の中には、何の苦悩も障害も抱いていないものもいるが、そういうものは除外されるのか」という批判もまた起こった。
c. 犯罪行為をもって精神疾患とする
2000年に出されたDSM-IV-TRすなわちDSM-IVの改訂版において、パラフィリアのいくつかの診断基準が変更された。具体的には、小児性愛、窃視症、露出症、盗触症においては、基準Bが

基準B:その人が性的衝動を行動に移している、またはその性的衝動や空想のために、著しい苦痛または対人関係上の困難が生じている。と変更された。また、性的サディズムでも、同意していない人に対して性的衝動を行動に移せば基準Bを満たすこととなった。
つまり、小児性愛、窃視症、露出症、盗触症、性的サディズム(同意してない相手に対して)では行動に移せば、それぞれ精神疾患として診断が下される。いっぽうで、フェティシズム、性的マゾヒズム、服装倒錯的フェティシズムなどでは、たとえ行動に移しても、本人に苦悩や障害がない限りは精神疾患とはみなされない。
このことは、小児性愛、窃視症、露出症、盗触症、性的サディズムでは行動化がすなわち性犯罪になるのに対し、フェティシズム、性的マゾヒズム、服装倒錯的フェティシズムでは行動化しても、性犯罪にはならないからである。
しかし、この診断基準は「犯罪という概念と、精神疾患という概念を同一化するのはおかしい」「性犯罪の代表であるレイプはなぜ、パラフィリアではないのか」と新たな批判を呼び起こしている。
以上、多様な性行動の何をもって精神疾患とするか、ということについての議論の概略を示した。パラフィリア概念は現在もなお、揺れ動きつづけているものといえよう。

2. パラフィリアをめぐる統計
パラフィリアの疫学すなわち、「世の中にはどのくらいパラフィリアを有する人がいるのか」「パラフィリアはそれぞれどのくらいいるか」を具体的に示す統計は乏しい。この理由の第一としては、たとえパラフィリアを有していても、そのことを主訴に精神科を受診することがまれだからである。受診する者の多くは、夫婦関係の危機を迎えたり、性犯罪を犯して裁判沙汰になった場合などである。そこで、ここではパラフィリアを有するものそのものではなく、関連するいくつかの統計を紹介する。

(1)性的被害に関する統計
我が国における最近の性的被害に関する調査としては、1998年の笹川らが成人日本人女性667名に行った調査、1999年の安藤らが成人日本人女性457名に行った調査、1998年の内山らが、高校生・大学生の男性563名、女性676名に行った調査などがある。なお、これらの性被害の加害者が、必ずしもすべてパラフィリアを抱えるものではないが、被害に対応するパラフィリア疾患を括弧の中に記しておく。
a. むりやりの身体接触(窃触症)
女性の58.4〜69.8%、男性の4.1%が経験。
b. 男性性器を露出される(露出症)
女性の37.2〜56.9%、男性の2.3%が経験。
c. のぞかれる(窃視症)
女性の10.8%、男性の4.4%が経験。
d. いたずら電話(電話わいせつ)
女性の49.4%、男性の3.7%が経験。
e. 下着盗(フェティシズム)
女性の8.9%、男性の0.7%が経験。

(2)性犯罪行為に対しての認識
矢島が1993年大学生の男子421名、女子531名に行った調査は、性犯罪行為に対する欲望次元での認識が示されている。「してみたい」という認識を「非常にそう思う」%を示す。括弧の中は性犯罪に対応するパラフィリア疾患である。
a. 覗き(窃視症)
男性の13.8%、女性の1.5%。
b. 痴漢(窃触症)
男性の7.9%、女性の0.4%。
c. 電話猥褻(電話わいせつ)
男性の1.9%、女性の0.2%。
d. 少年少女性愛〔12〜13歳くらい〕(小児性愛)
男性の2.4%、女性の0.6%。
e. 幼児性愛〔5〜6歳くらい〕(小児性愛)
男性の0.0%、女性の0.2%。
f. 性器露出(露出症)
男性の0.5%、女性の0.0%。
g. 死体愛(死体愛)
男性の0.2%、女性の0.0%。

3. パラフィリアの原因論
パラフィリアの病因論は、これまで各種提唱されているが、決定的なものはない。ここでは従来我が国ではあまり知られていなかった病因論として、Courtship Disorder(求愛障害)という概念を紹介する。
Courtship Disorderでは、人間の性的活動をfinding phase、 affiliative phase、tactile phase、 copulatory phaseの4段階に分け、この4段階から、過度に逸脱したものが、パラフィリアのいくつかに該当すると考える。
finding phaseとは、性的パートナーを探し出す段階である。一般的には、この段階では自分の好みのパートナーを探し出す活動が行われる。この段階が過度に突出し歪んだものが、窃視症になると考えられる。
affiliative phaseとは、性的パートナーと親しくなる段階である。一般的にはこの段階では、見つめたり、微笑んだり、話しかけたりすることで仲良くなろうとつとめる。この段階が過度に突出し歪んだものが、露出症やわいせつ電話になると考える。
tactile phaseとは、性的パートナーと触れ合う段階である。一般的にはこの段階では性交に至る前の身体的ふれあいが行われる。この段階が過度に突出し歪んだものが、窃触症や性的暴行になると考える。
copulatory phaseとは性交が行われる段階である。この段階が過度に突出し、歪んだものがレイプなどになると考える。
このように、Courtship Disorderでは、本来の性的活動の流れに沿わず、4段階の1段階だけが突出し、そこに強い性的興奮が伴う。本来の流れに沿っていないため、見知らぬ仲から、親しい関係になり性交というプロセスにはならず、見知らぬままの相手に性的興奮のを持つことになる。

4. パラフィリア各論
(1)露出症
 露出症、すなわちexhibitionismとは、見知らぬ人に自分の性器を露出することに強い性嗜好を有することを意味する。
露出行為の最中、露出を計画しているとき、露出を想像しているとき、露出行為後に思い出しているときなどにマスターベーションを行う。通常は、露出行為を行う相手に対して、それ以上の性的関係は求めない。露出行為の相手が驚いたりショックを受けたりすることや、相手から笑われたり怒られたりすることも、性的興奮の刺激材料となる。露出が犯罪行為であるとの自覚はあるが、逮捕の危険性も逆にスリル感として、性的興奮の刺激材料になる。
 女性による露出行為や、男性を対象とした露出行為の報告もいくつか見られるが、知られている大多数の露出行為は男性が女性に対して行っている。このことは、多くの露出症が男性から女性に行われることの反映とも思われるが、女性が男性に、あるいは男性が男性に露出行為を行っても、通報されたりはせず、性犯罪として表面化しにくいという理由も考えられる。

(2)フェティシズム
フェティシズムすなわちfetishismとは、広義には生命のない物体(フェティッシュ fetish)や人体の一部に対してだけ強い性嗜好を有することを意味する。しかし、DSM-IV-TRでは、フェティシズムは生命のない物体への性嗜好を意味し、人体の一部への性嗜好は部分性愛(partialism)として区別されている。
fetishとは、ポルトガルのfeticoから来ており、feticoとは超自然の霊を具現し、魔力を有するお守り、魔よけといった意味である。 フェティシズムの対象としては、女性のパンティー、ブラジャー、ストッキング、靴、ブーツなどの身につけるものの場合が多い。また、革、ゴム、エナメルなどの素材が対象となることもある。
フェティシズムの人は、対象物を手に取ったり、体にこすりつけたり、身にまとったり、臭いをかいだりしながらマスターベーションを行う。あるいは性的行為のときに相手にその対象物を身につけるように頼むこともある。
フェティシズムの人は、その対象物を収集することが多い。現代日本では、通信販売、中古ブルセラショップ、インターネット等で入手されるようである。いわゆる「下着ドロ」で、干された洗濯物を盗むものもいる。ゴミをあさることで収集するケースもある。 フェティスズムでは他のパラフィリアを有することも多い。性的サディズムや性的マゾヒズムと合併し、鎖や手錠による緊縛が行われることもある。筆者の経験例では、歩いている見知らぬ女性の後ろから、かかと及び靴の写真を数千枚ほど盗撮していたものがいる。これは、靴へのフェティシズムと窃視症の合併例だと思われる。

(3)窃触症
 狭義の意味においては、窃触症すなわちtoucherismは見知らぬ人物の股間や乳房等の身体に触れることに強い性嗜好を有することを意味し、摩擦症すなわちfrotteurismは見知らぬ人物に性器をこすりつけることに強い性嗜好を有することを意味する。
 しかし、一般的にはこの両者は特に区別されずに用いられることも多く、DSM-IV-TRにおいても「302.89窃触症 Frotteurism」として、両者を含んだ疾患単位となっている。
 窃触症が実際に行動化される場所には、混雑した電車やバス、映画館、本屋や図書館などがある。混雑していて触りやすい、触っているのが誰だか特定されにくい、被害者の抵抗が困難、逃げやすい、あらかじめターゲットとなる相手を探しやすい、などの理由で上記の場所が好まれる。
 具体的行動としては、手のひらで触ったり、性器をこすりつけたりするのが典型的だが、ひじやひざや大腿などを用いての窃触を行う者もいる。たまたま近くにいた相手に窃触する場合もあるが、あらかじめターゲットとなる相手を探しておき、接近するものもいる。原則的には見知らぬ相手が対象となるが、電車内痴漢行為では、繰り返し同じ相手が対象となることもある。窃触行為の最中に射精するものもいれば、行為の前後に想像したり思い出しながらマスターベーションを行うものもいる。電車内痴漢行為における射精は、自分の下着の中にするもの、あらかじめコンドームを装着しておいて射精するもの、女性の衣服に対してするものなどがいる。また、窃触行為の最中に射精するのではなく、あらかじめ精液をこびん等に入れておき、窃触を行いながら、相手の衣服等に精液をかけるものもいる。
 また、近年ではインターネットの痴漢関連のサイトを読み、性的に興奮したり、他の窃触行為のやり方を覚えたり、自己の空想や経験を掲示板に書き込むものもいる。あるいは、インターネットの掲示板や出会い系サイトで知り合った女性と同意の上で痴漢行為を行うものや、知り合った男性複数が集団となり痴漢行為を行い場合もある。
 通常は、窃触行為が犯罪行為であることは自覚しているといわれている。しかし、その犯罪性を過小評価していたり、被害者が強い抵抗を示さない場合にはそれを同意があったと自己中心的に解釈していることも多い。あるいは、犯罪行為と知っているがゆえに、スリル感を感じ性的興奮が高まるものもいる。また、痴漢行為に対して必ずしも犯罪とは認識していない一群もいると推測される。
 窃触症が他のパラフィリアを伴うことは、外国の文献では高い率で認められる。しかし、これは日本では異なると筆者は考える。電車内痴漢行為を主訴とするものの場合は、他のパラフィリアを伴うことは少ないという印象を持つ。いいかえるならば、日本では他のパラフィリアは伴わず、もっぱら電車内痴漢行為のみを行う一群がいるということである。

(4)小児性愛
小児性愛すなわちpedophiliaとは思春期前の子供に対して性嗜好を有することを意味する。
小児性愛が行動化される場合は、子供の服を脱がせ裸を見たり、自分の性器を露出させたり、マスターベーションを見せたりする場合もある。さらに、子供の体を触ったり、フェラチオさせたり、クンニリングスをしたり、指や異物やペニスなどを、子供の膣、口、肛門に挿入したり、挿入しようとする場合もある。
小児性愛を有するものは、そのことに苦悩や罪悪感を持たず、「教育的価値がある」「子供のほうも性的に喜んでいる」などと、自分自身を納得させている場合もある。筆者の経験では、自分の6歳の女児に対して、入浴中に、膣を触ったり、膣にペニスを押し付けていた男性が、「狭い風呂場で一緒に入っていたからくっついただけだ」という言い訳を主張していた。
小児性愛の対象は男児のみ、女児のみ、男女児両方の場合がある。自分自身の子供や親戚が対象となることもあるし、まったくの他人を犠牲にすることもある。日本では、東南アジア等の外国に行き、小児と売春する男性もいるようである。

(5)性的マゾヒズム
性的マゾヒズムすなわちsexual masochismとは、苦痛を受けることへ強い性嗜好を有することを意味する。
マゾヒズム的性衝動が自分ひとりで行動化される場合は、自分を縛ったり、自分に針を刺したり、自分に電気ショックを与えたりする。相手と一緒に行われる場合には、拘束、目隠し、叩かれる、むちで打たれる、殴られる、切られる、電気ショック、針を突き刺される、尿をかけられる、四つばいになり犬として扱われる、などがある。強制的に異性の服を着させられたり、幼児のように扱われたりして、辱められる場合もある。
性的サディズムの中で危険なものとして、低酸素渇望(asphixiophilia)というものがある。これは首をしめたり、首をつったり、のどに詰め物をしたりなどして、脳を低酸素状態にすることで性的な興奮を得るものである。米国では、毎年500~1000人ほどこれを行っている最中のミスで死亡しているという。日本における低酸素渇望に関する統計、文献を筆者は知らないが、数年前に報道されたドアのノブにひっかけた紐に首をつって死んでいた芸能人のケースは、低酸素渇望による事故死ではないかと筆者は推測している。
(6)性的サディズム
性的サディズムすなわちsexual sadismとは、苦痛を与えることへ強い性嗜好を有することを意味する。
苦痛を与える対象は同意している場合もあれば同意していない場合もある。与える苦痛には精神的苦痛と身体的苦痛がある。具体的には、四つばいにして這わす、檻に閉じ込める、拘束、目隠し、叩く、鞭打ち、火傷をさせる、電気ショック、切る、刺す、首を絞める、強姦、拷問、切断、殺すなどである。
性的サディズムは慢性的であることが多く、対象が同意してない場合は、逮捕されるまで繰り返されることがある。
性的サディズムが重症であったり、反社会性人格障害を合併している場合には、犠牲者をひどく傷つけたり、殺したりする。

(7)服装倒錯的フェティシズム
服装倒錯的フェティシズムとはtransvestic fetishismの一般的訳語であり、男性が女性の服装を着ることに強い性嗜好を有することを意味する。筆者としてはtransvestic fetishismの訳語としては、「異性装的フェティシズム」が正しい訳と考えるが、ここでは一般的訳語である服装倒錯的フェティシズムを使用する。
服装倒錯的フェティシズムは、多くの場合自分自身が女性であるという想像(自己女性化性愛 autogynephilia)により引き起こされる。単なるフェティシズムでは女性服そのものが性的興奮の対象となるが、服装倒錯的フェティシズムでは、自分自身が女性であると想像して興奮する。
性同一性障害でも異性の服装をするが、それは性的興奮が目的ではなく、自己のジェンダー・アイデンティティに一致した衣服を着用したいためである。しかしながら性同一性障害を有するものが、かつて服装倒錯的フェティシズムがあり、異性装に性的興奮をしていたというエピソードもまれではない。
服装倒錯的フェティシズムの衝動には波があることもある。筆者の経験では、衝動が強まると女性服を買い揃え、衝動が弱まると自責の念からその服をすべて捨ててしまうことを年に何回も繰り返し、1年の衣服代の合計が高額なものになったものもいた。

(8)窃視症
窃視症すなわちvoeurismとは、通常は見知らぬ、警戒してない人の裸、衣服を脱ぐ行為、性行為を見ることに強い性嗜好を有することを意味する。日本語では、のぞき見、出歯亀などとよばれ、英語では、peepers、inspectionalism、mixoscopiaなどともよばれる。
のぞき見の最中、あるいはのぞき見を計画しているとき、のぞき見を想像しているとき、のぞき見後に思い出しているときなどにマスターベーションを行う。自分がのぞき見をした人と性的関係を持ちたいと空想することもあるが、実際にそうなるのはまれである。のぞきを行う場所としては、窓、トイレの壁の上下、ドアについている郵便ポストの穴などがある。トイレでのぞくものは、相手の性器や臀部ではなく、小便や大便の排泄を見て性的興奮を得る場合もある。特殊な例とは思われるが、筆者の経験例でトイレでのぞきを繰り返し、さらに、ドアのポストの穴からのぞきをしていた女性の部屋に留守中侵入し、部屋のじゅうたんの上に大便をすることで性的興奮を得たものがいる。
また、現代では、窃視症は盗撮という形で、臨床や司法の場において問題にされることが多い。盗撮では、自ら撮影したり、隠しカメラという形で設置しておいたり、他者(知人の女性など)に頼み撮影したりする。撮影の最中や、撮影を計画しているとき、再生したビデオや現像した写真を見るときなどに性的興奮を得る。自ら撮影したものだけでなく、他者が撮影したビデオや写真等を見ることで興奮する場合もある。また、盗撮では、撮影の対象が性的行為や裸や着替えという状態になく、通常の衣服を着用している場合でも性的興奮を得るものもいる。あるいは、フェティシズムや部分性愛を伴うものにおいては、靴やかかとなどの撮影で性的興奮を得ることもある。また見知らぬものだけでなく、知人女性の着替えを撮影した例も筆者は経験している。

(9)その他
 パラフィリアには、その他に電話をしてみだらなことをいうことに性嗜好を有す「電話わいせつ」(telephone scatologia)、死体との性交に性嗜好を有す「死体愛」(necrophilia)、身体の一部にだけに関心が集中する「部分性愛」(partialism)、動物との性交に性嗜好を有す「獣愛」(zoophilia)、糞便に性嗜好を有す「糞便愛」(coprophilia)、浣腸に性嗜好を有す「浣腸愛」(klismaphilia)、小便に性嗜好を有す「小便愛」(urophilia)などがある。

主要参考文献
American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition, Text Revision. American Psychiatric Association, Washington DC, 2000
American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Forth Edition. American Psychiatric Association, Washington DC, 1994
笹川真紀子:日本人の成人女性における性的被害調査.犯罪学雑誌 64(6):202-21-,1998
安藤久美子:性暴力被害者のPTSDの危険因子.精神医学 42(6):575-584,2000
内山絢子:高校生・大学生の性被害の経験.科学警察研究所報告防犯少年編 39(1):32-43,1998
矢島正見:性犯罪に対しての男と女の構図―大学生の調査から―.犯罪と非行124:100-118,2000
針間克己:性非行少年の心理療法.有斐閣,2001