臨床心理学 第2巻第2号 2002年 162 非行と性同一性障害 性同一性障害とは身体的性別と心理的性別が一致しない状態を指し、最近日本でも外科的療法が行われるようになり、関心が持たれるようになっている。非行との関連は、性同一性障害者の思春期における心理的特性から主に3点があげられよう。 第一には、将来への不安や絶望感からくる、自己破壊的行動である。「このまま男としては生きていけない、しかし女として生きていくこともまわりは許してくれない」などと感じ、自殺未遂、多量の飲酒や、怠学、登校拒否などを示すものもいる。これらのいくつかが周囲からは非行と認知されることもある。 第二には、社会的性役割と異なる行動である。たとえば、身体的性別が女性であっても、心理的には男性の場合、「セーラー服を着たくない」などと思い、校則を遵守しない場合がある。このような行動も、まわりからは非行と認知されることもある。 第三には、第二の場合とは逆に、極端に一般的社会的性役割をとろうとする場合である。たとえば、「男性とセックスをすれば、自分を男性だと思う気持ちが治って、普通の女性になれるかもしれない」などと思い、過度に男性と性行動を試みたりする場合もある。この場合も周囲からは非行と認知される可能性がある。 以上あげた三点いずれの場合にも、その対応としては、背景にある性別違和感に対する悩みに対して、偏見を持つことなく、受容的に聞いていくことが何よりも大切であろう。その上で、性別の悩みを持ちながらも、一人の人間として実りのある思春期を生きていくこととの大切さをともに考えていく姿勢が必要であろう。 参考文献 針間克己:性非行少年の心理療法,有斐閣,2001 石原明・大島俊之編:性同一性障害と法律,晃洋書房,2001 |