泌尿器科外来シリーズ6 Erectile Dysfunction外来 31−40 2000年 メジカルビュー社 精神科的問診 1.基本的態度 まず最初に勃起障害に限らず、性障害全般の患者への問診にあたって注意すべき基本的態度のいくつかを記す。 1)話をじっくりと聞く 性に関する主訴の場合、患者は「こんな話をしていいのだろうか」「こんなことは病院で話すことではないのでは」「こんなことを言って変に思われないだろうか」などと思うことが多く、自分の症状を包み隠さず話すことが難しい。まずはじっくりと話を聞き、「性について話をしても大丈夫だ」との安心感を与えることが、診療を開始する第一歩として必要である。このことが、医師治療者間の信頼関係を築く土台となり、十分な情報を聴取することへとつながる。 2)話を具体的に聞く 患者によってなされる訴えは、おうおうにして「夜の生活がうまくいかない」「ときどきしか勃起しない」「マスターベーションは普通です」などと主観的で曖昧である。同じような訴えでも、具体的な症状や状態は実際にはその個人個人によってかなり幅がある。「普通」「うまくいかない」といってもその実体はさまざまなのである。訴えをそのまま早合点して納得せずに、「いつ」「どのようなとき」「どんな相手と」「どんなところで」「どんな方法で」「どのくらいの間」「どのくらいの頻度で」「どんな具合に」と、具体的に詳細に聞くことでそれぞれの症状をできるだけ正確に把握するようにつとめたい。 3)価値観を押しつけない 性や夫婦に関する価値観は人それぞれである。患者の価値観が治療する医師の価値観と異なる場合に、「夫ならそういうことをすべきではない」「そんなセックスはしてはいけない」などと、医師は自分の価値観を患者に押しつけてしまいがちである。しかし、医師は患者自身の価値観を尊重し、自分の価値観を押しつけるべきではない。ただし、患者の価値観が誤ったないしは歪んだ知識に基づいて形成されている場合は、より良き自己決定ができるように、「そのような性行動は性感染症の恐れがある」「そのような性行為は性的快感を得るのは困難である」などのように、医学情報をはじめとする正しい知識を伝えることは、医師として望まれるべき行いである。 4)秘密を守る 医師に守秘義務があるのは当然のことだが、特に性に関する事柄の場合は、患者は秘密が第三者に知られるのを恐れる。患者の秘密は確実に保持されなければならない。また、「他の相手となら性交が可能」「実はこんな性交なら興奮する」などのように、その秘密は時にして、パートナーにも知られたくない事柄の場合もある。この場合も当然、パートナーに対しても医師は秘密を保持しないといけない。 5)パートナーからも話を聞く 性交は二者間でなされる行動であり、その障害は二者が関わる問題である。より正確な情報を把握するためには、パートナーへの問診も必要である。また、パートナーの協力が得られた方が予後は良いといわれており、治療的意義からもパートナー参加が望まれる。実際には、患者がパートナーに来院を頼もうとしない場合や、パートナーが来院したがらない場合もあるが、患者との信頼関係を形成した上で、折を見て、パートナー来院を求めて行くべきだろう。 6)ひいきをしない 患者とパートナーの二人に対して、医師はどちらかにひいきをしてしまうことがある。 例えば、男性患者に対して「男のくせにふがいない」と感じたり、逆にパートナーに対して「女のくせに生意気だ」と感じ、言葉や態度にでてしまうことがある。このように感情的にどちらかを嫌ったり、肩入れすることなく、中立の立場を保たなければならない。あるいは、患者がパートナーへの否定的な感情を「妻はだらしない」「女のくせに生意気だ」などと述べ、医師に同調を求めてくることがある。こんな時に不用心に「本当にそうだねえ」と同調することは望ましくない。患者は怒りの感情を表出しながらも、同時に、パートナーへの肯定的感情があるからこそ治療を求めているからである。 2.診療の流れ (図1) 一般医療においては、診療は、情報の収集、診断、治療と進む。その中で、言葉による情報の収集(聴取)と、それに基づく診断が問診と呼ばれる。しかし、精神科医療、特に性障害においては、診療は一方通行に進むものではない。すなわち、問診に基づき治療が開始されても、そこで新たな情報が集まれば、さらなる診断の深まりや、あるいは別の診断が得られることとなる(例えば、勃起の問題以外に性欲の問題があった、実はパートナー側にも障害があったなど)。その深まったあるいは新たな診断に基づき、治療が再び始まることとなる(例えば、性欲の問題やパートナーも治療の対象とするなど)。このように、精神科的な性障害の診療とは、情報収集、診断、治療が一方通行にではなく、時に循環し、時に渾然一体となりながら進んでいくものでなのである。 3.情報の聴取 問診の第一段階は情報の聴取である。性的問題の聴取の内容は、患者が言いたがらないことや、言うことが恥ずかしい場合が多く、医師からのイエス、ノー式の一方的な質問の羅列では、有用な情報を得ることが困難である。むしろ、患者中心に自由に話をしてもらう方が、より内容のある情報を聴取することができる。 最初に得られる情報は通常、 患者自身の自発的第一声によって、あるいは、医師の「どうなさいましたか」への返答として得られる、受診理由ないしは主訴である。受診理由でおさえておきたいことはいくつかある。受診発案者は本人なのか、パートナーのすすめなのか。子供が欲しくて来たのか、夫婦円満になりたくて来たのか、離婚を避けるために来たのか、男としての自信を回復しに来たのか。泌尿器科からの紹介か、紹介なく直接来たのか。これらの情報は、今後どう問診および治療をすすめていくかを決定する重要な鍵となる(表1)。主訴は、患者の初診当初における、意識化され、言語化された問題点が、凝縮したか形で現れてくる。主訴を詳細に聴取していくことは、患者自身にとっては、その時点で最も困り悩んでいることを、聞いてもらえるという意味で治療的であり、医師にとっては、その主訴の内容ををふくらましていくことでその後の情報聴取への円滑な移行を容易にする。また、治療を開始した後に、病状改善の行き詰まりを示した場合、初期における問題意識である主訴を想起することは、治療過程を見直し新たなる治療戦略を立てていく上で、有用であろう。 聴取すべき情報は、現病歴を始め多岐に渡るが、主たるものを、表2に示した。繰り返しになるが、聴取にあたっては、患者中心に話してもらいながらも、より具体的、客観的情報を得るように務める。また、聴取すべき情報は多いが、ある程度、性的状態などのポイントを把握したら、仮説としての診断を行い、その診断に基づき治療を進める中で、新たに情報を得て、それに関わる情報をさらに聴取するという具合に情報内容を深めていけば良いであろう。 主訴を詳細に聞いていくことは、そのまま現病歴の聴取へとつながる。生来型の勃起障害の場合などでは明確な発症時期が不明な場合も多く、現病歴の聴取は、現在および過去の性的状態を全体的に聴取する中で、行うべきであろう。性交時の性的状態については、ペニスの勃起状態だけでなく、その相手や状況、性交中および前後の心理的状態も聴取する。勃起障害を訴える場合は、性交中のどの段階で、どういった状況で、どのような心理状態の時に起きるかを聴取する。マスターベーションは手指によるペニスへの刺激以外に、布団へのこすりつけや、何らかの器具を用いて行うものなどがおり、その方法を具体的に聴取する。また、興奮する対象や、想像する内容も聴取する。女性の裸体や、性交場面以外にも、着衣の女性や、女性の姿でなく漠然とした性器や、男性、SM場面などの、雑誌写真、ビデオ、あるいは想像によって興奮し、マスターベーションを行うものもおり、性嗜好や性指向を知る手がかりとなる。 パートナーについての情報も聴取する。その情報は、患者からと可能であれば、パートナー自身からも得る。パートナー自身の性的状態、患者パートナー関係、パートナーから見た患者の状態などが聴取すべき主たる内容である。患者とパートナーから、それぞれ聴取する内容は、大きく異なることが多々あり、その食い違いは、性障害を引き起こしている原因を探る上で、一つの鍵となりうる。 性障害以外の過去および現在の精神症状の有無を聴取する。性障害に伴って、二次的な抑うつ不安症状を示すものも多く、このような二次的精神症状についても聴取する。 身体症状は、身体的既往歴や、現在および過去における薬剤の服用状況、酒、たばこの摂取量、身体の一般的疲労等を聴取する。 家族歴は、家族、親族の関連しそうな身体・精神疾患の有無と共に、どのような家族が、どのような家族観、結婚観、夫婦観、性への考えの中で、患者を育ててきたかを聴取する。 生活歴は、学歴・職歴を聞くと同時に、患者がどのような価値観を有し、どのような対人関係を持ってきたかも聴取する。 4.診断 情報の聴取を行ったら、診断を行う。だが、この診断とは確定診断と考えるより、治療へと進む前段階の、仮説としての診断であり、その後の治療により新たな情報が加わることで、修正、変更されうる性質のものである。 また「診断」と一言で言うが、ここでの診断は単に疾患分類上の診断名を割り当てることではない。患者のさまざまな側面から見た全体像を把握し、勃起障害を引き起こしている原因を明らかにしていき、治療の指針をたてていくことも同時に含むのである。 1)患者の全体像の把握 聴取された情報をもとに患者の全体像を把握する。勃起そのものの状態だけでなく、それをとりまく、患者の諸側面を総合的に把握する。把握にあたって軸となる諸側面を表3に示す。 性機能状態の把握にあたっては、性反応が四相に分かれることを留意し(表4)、それぞれの反応相のどの段階でどのような問題が生じているかを注意深く評価する必要がある。勃起と射精は目に見える形で異なるため、その違いは容易に理解されやすいが、性欲は目に見えないために、その存在を見落とすことがある。そのために、実際には「性欲がない」すなわち欲求相の障害であるにも関わらず、「勃起しない」という勃起障害つまり興奮相の障害と誤診してしまう例はよく見受けられる。 性行動時やその他の性的状況の中での患者の精神状態の把握は詳細にしなければならない。多くの場合は性的状況において、不安、恐怖、嫌悪、葛藤などの否定的な感情が起こり、性的反応を阻害している。最初のうちはそれらの感情を言葉でうまく表現できず、面接を繰り返すうちにようやく語ることができるようになる患者も多い。 精神症状の把握は慎重に行う必要がある。抑うつ不安状態などの場合、性障害に伴って二次的に症状を示しているのか、元来抑うつ不安状態であり、その一症状として、勃起障害等の性障害症状を呈するのか、鑑別が難しいこともある。 性のありようは性指向、性同一性、性嗜好から成り立ち(表5)、それぞれ患者の性反応に影響を与えうる。性指向は、異性愛、同性愛、両性愛、無性愛(男女いずれにも対しても性指向がない)がある。性同一性は身体的性別と一致することが多いが、性同一性障害者のように、身体的性別とは一致しないものや、男女両方の性同一性を持つ者もいる。性指向と性同一性は混同されることがあるがそれぞれ独立した別個の概念である。性嗜好の偏ったものがパラフィリア(かつての性的偏倚、性倒錯)である。性のありようは、患者治療者関係が十分に確立して始めて明らかにされたり、実際の性行動や性役割と異なることもあり(結婚しているが実は同性愛など)、慎重な評価が必要である。実際の行動と共に、マスターベーションや性交時においてどのようなことを想像しながら、興奮しているかを聞くことが性指向や性嗜好を知る上で有用なこともある。 性知識は、欠如していたり、不足していたり、あるいは誤った解釈をしていたりすることがあり、これらのことが性反応に影響を与えていることがある。一通りの聴取では、問題なく聞こえる性知識でも、詳細に聞くと、思いこみの強い歪んだ性知識を持つことが明らかになることもある。 パートナーについても、患者自身と同様に全体像を把握する必要がある。実際には性障害の原因はパートナー側にあったり、患者の勃起障害だけでなく、パートナーにも性障害やその他の何らかの問題がある場合などがある。 二者関係についても把握する必要がある。一般に良好な二者関係の方が予後がよいといわれるが、表面的には良好に見えても実は問題のある関係であったり、その逆に診察室では激しく喧嘩しながらも、家では協力し合って、治療に取り組む夫婦もいる。また、医学的治療を行う以前に、二者カウンセリングが必要な関係の場合や、離婚の材料として診断書をパートナーが欲している場合などもある。 身体的状態も把握すべきである。問診によって身体的な原因が疑われる場合はいうまでもないが、理想を言えば、性障害を訴える全ての患者に対して、精神医学的診察と同時ないし以前に、泌尿器科等で身体的検査が実施されることが望ましい。 2)疾患分類上の診断 疾患分類上の診断には、精神科では一般的にDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版)を用いる。 DSM-IVにおける、性障害、性同一性障害は表6の通りである。主訴が勃起障害であっても実際には、別の性障害に分類されるものもいる。男性の勃起障害以外にも、他の性障害を併発しているものもおり、その場合は、その障害名も併記される。 勃起障害は、性機能不全、性的興奮の障害の中の男性の勃起障害へと診断分類され、その診断基準は、表7の通りである。ペニスの生理的状態だけでなく、基準Bで本人の苦痛や、対人関係上の困難さといった心理的問題も診断基準に含まれていることに留意する必要がある。また、発症、状況、病因を示すために、病型を記載することができる。それぞれの病型の基準は、表8の通りである。生来型、獲得型は一次性、二次性ともいわれ、過去にうまくいった性交があれば獲得型ないしは二次性で、一度もうまくいったことがなければ生来型ないしは一次性である。全般型、状況型は勃起障害が状況性かどうかを示し、状況型には「妻とはだめだが愛人とは可能」「家ではだめだがホテルなら可能」「妻が衣服を着たままなら可能」などの例がある。勃起障害の原因により、心理的要因による、と、混合性要因による、に分けられる。たとえ、身体疾患や、物質の使用が原因として関与していても、心理的原因も関与している場合には、混合性要因による、に分類される。原因が一般身体疾患のみによる場合は、一般身体疾患による性機能不全に分類され、薬物の使用のみによる場合には、物質誘発性性機能不全に分類される。 3)治療指針をたてるための原因診断 治療へと進めていくには、勃起障害を引き起こしている原因を明らかにする必要がある。十分な患者の全体像の把握ができていれば、その原因も自ずと明らかとなるはずだが、既に述べたように、その把握は、治療を進める中で徐々に積み重ねていくものである。そのため、早い段階において、不十分ながらでも原因を仮説として推定し、治療を進めながら、その原因が勃起障害を引き起こしているのか、あるいは他の原因も関与しているのか検証していくこととなる。 勃起障害を引き起こす原因としては、大きく分けて、表9に示すように直接的原因、深層的原因、二者関係の原因がある。これらの原因は、もともとは、異なった治療技法理論から、それぞれ提唱されていたものであるが、現在ではこれら原因を統合的に捉え、治療にあたるという考えが主流である。 直接的原因は、性反応の真っ最中に作用し、その時点で性反応をだめにしてしまう。この原因は患者自身が比較的容易に気が付き、治療の標的としてすぐに扱いやすい。直接的原因の代表的なものは性的不安であり、「またセックスがうまくいかないのでは」という失敗への恐怖は、ほとんどの患者に共通して見受けられることができる。この恐怖に伴い、「パートナーから見捨てられるのではないか」という不安、「パートナーからセックスを強要されている」という圧迫感もよくある心理である。また性的知識の欠如や強迫的思考に由来する「いついかなる時も必ず十分に勃起し、その勃起を持続させ、それによりパートナーを性的に満足させなければいけない」という強い思いも、頻繁に見受けられる。 深層的原因は、性行為を楽しみたいと願望と、そうすることへの無意識の恐怖から生ずる心理的葛藤に由来する。直接的原因のようにすぐに意識され、直接には性反応を阻害せず、意識されない心の奥底で、間接的に性反応を阻害すると考えられる。しかし、直接的原因と深層的原因は明確に二分できるものと捉えるより、ある同一連続体上に位置し、その中により直接的ないしは、深層的な原因があると理解する方が良いであろう。 二者関係の原因とは、患者パートナー間における破壊的な性的システムを指す。そのシステムは、個人においてと同様に、より直接的に破壊的なものから、二人は意識していない深層的に破壊的なものまである。 診断にあたっては、より意識され扱いやすい、直接的な原因をまず探り、その直接的な原因を標的とした治療を進める中で、より深層的な原因を明らかにしていくこととなる。 治療当初は、直接的な原因にしか、患者やそのパートナーが気付かなくても、徐々に自分の心の奥底を見つめ始め、より深層的な原因に気が付き治療の中で語り、治療の対象として扱えるようになってくる。しかし、実際には、深層的原因があったとしても、直接的な原因を標的にしていくだけで、病状が改善されていき、治療終了となることも多い。 図1 性障害の精神科的診療の流れ 表1 受診理由の聴取 受診契機 受診を思い立ったきっかけは何か 受診動機 医師に求めるものは何か 受診発意者 誰が受診を思い立ったのか 受診経路 どのようにして治療者を知ったのか 表2 聴取すべき情報 1.現在の性的状態 性交の頻度、相手 性交時の性欲、勃起、挿入、挿入後、射精の状態、 マスターベーションの頻度、方法、対象 マスターベーション時の性欲、勃起、射精の状態 覚醒時勃起の頻度、状態 夢精の有無、頻度 2.過去の性的状態 初回性交時の年齢、相手、状況、気持ち その後の性交の頻度、相手 その後の性交時の性欲、勃起、挿入、挿入後、射精の状態 初回マスターベーション時の年齢、方法、対象、気持ち その後のマスターベーションの頻度、方法、対象 その後のマスターベーション時の性欲、勃起、射精の状態 覚醒時勃起の頻度、状態 精通時の年齢、状況、気持ち 夢精の有無、頻度 3.パートナーに関する情報 関係(配偶者、恋人、不倫相手、金銭を介するなど) 知り合った経緯、その後の経過 性的関係の経過 現在の心理的関係性(安定、不安定、不仲など) パートナーの性的状態 パートナーから見た患者の状態 4.精神状態 現在および過去の精神症状の有無 性障害に伴う精神症状の有無 5.身体状態 身体疾患の有無 使用薬剤の有無 たばこ・アルコール 身体的疲労の程度 6.家族歴 家族の夫婦観、結婚観、性への考え 家族の身体的、精神的疾患の有無 7.生活歴 学歴、職歴 どんな価値観か 対人関係の問題の有無 表3 患者の全体像の諸側面 1.性機能状態 欲求相、興奮相、オルガズム相、解消相の状態 2.精神状態 性的状況における精神状態 他の精神疾患や二次的な精神症状の有無 3.性のありよう 性嗜好、性指向、性同一性の同定 4.性知識 欠如、不足、誤解の有無 5.パートナーの状態 性機能状態、精神状態、性のありよう、性知識、身体状態 6.二者の関係の状況 良好、不安定、無関心など 7.身体状態 身体疾患、使用薬剤、たばこ・アルコール、過労、加齢 表4 性反応の四相 欲求相 性的活動についての空想および性的活動をしたいという欲求から成る。 興奮相 性的快感の主観的感覚とそれに伴う生理学的変化より成る。男性の主要な変化はペニスの膨張と勃起から成る。 オルガズム相 性的快感の絶頂から成り立ち、性的緊張の解放、および会陰筋と生殖器官の規則的な収縮を伴う。男性の場合には射精不可避であるという感覚になり、それに続いて射精する。 解消相 筋肉の弛緩と全般的な満足感より成っている。この相では、男性はある時間の間は生理学的にまた、勃起したりオルガズムを感じたりしない。 表5 性のありようの構成要素 性嗜好 性的興奮のためにどのような行動やイメージを欲するか 性指向 性的興奮を引き起こす性別は何か 性同一性 自分が男性であるか女性であるか、あるいはどちらの性でもあるかについての自己認知 表6DSM-IVにおける性障害および性同一性障害 性機能不全 性的欲求の障害 性的欲求低下障害 性嫌悪障害 性的興奮の障害 女性の性的興奮の障害 男性の勃起障害 オルガズム障害 女性オルガズム障害 男性オルガズム障害 性交疼痛障害 性交疼痛症 膣けいれん 一般身体疾患による性機能不全 物質誘発性性機能不全 特定不能の性機能不全 性嗜好異常 露出症 フェティシズム 窃触症 小児性愛 性的マゾヒズム 性的サディズム 服装倒錯的フェティシズム 窃視症 特定不能の性嗜好異常 性同一性障害 性同一性障害 特定不能の性同一性障害 特定不能の性障害 表7 DSM-IV 男性の勃起障害の診断基準 表8 病型分類 発症の特質 生来型 性機能発現以来存在し続ける 獲得型 正常に機能した期間の後に発現した 状況の特質 全般型 ある特定の刺激、状況、またはパートナーに限られていない。 状況型 ある特定の刺激、状況、またはパートナーに限られている。 病因 心理的要因 心理的要因が、性機能不全の発症、重症度、悪化または、維持に主要な役割を果たしていると判断され、一般身体疾患や物質が性機能不全の病因としての役割を果たしていない場合 混合性要因 1)心理的要因が、性機能不全の発症、重症度、悪化または、維持に主要な役割を果たしていると判断され、2)一般身体疾患または物質の使用もまた関与しているが、性機能不全を説明するには十分ではないと判断される場合 表9 勃起障害の心理的原因 直接的原因 性に関する無知 性的不安 失敗の恐怖 性的行為の強要 パートナーを喜ばそうという過度の願望 傍観者的態度 深層的原因 性に対する抑圧 罪悪感 無意識的不安 外傷体験 二者関係の原因 パートナーの拒絶 信頼の欠如 権力闘争 結婚契約上の失望 性的妨害 コミュニケーションの失敗 文献 1)阿部輝夫:セックスレス・カウンセリング.小学館,東京,1997 2)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth Edition.American Psychiatric Associationn,Washington D.C.,1994-高橋三郎・大野裕・染矢俊幸(訳): DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,東京,1996 3)土居健郎:方法としての面接.医学書院,東京,1977 4)針間克己:性機能不全 B.分類と臨床像.臨床精神医学講座,松下正明ほか編,srecial issue第4巻 摂食障害・性障害.中山書店,東京,印刷中 5)Kaplan HS:The New Sex Therapy.Brunner/Mazel,New York,1974−野末源一(訳):ニュー・セックス・セラピー.星和書店,東京,1982 6)Masters WH,Johnson VE:Human Sexual Inadequency.Little Brown & Co, Boston, 1970−謝国権(訳):人間の性不全.池田書店,東京,1970 7)日本性科学会 日本セックスカウンセラー・セラピスト協会:セックスカウンセリング入門.金原出版,東京,1995 |