性同一性障害の法的性別に関する緊急要望 1997年7月25日,日本精神神経学会 性同一性障害に関する特別委員会は「性 同一性障害に関する答申と提言」を発表した。以来,現在まで,埼玉医科大学 で7名,岡山大学で1名の性別適合手術(性転換手術)が行われたのをはじめとして,各医療機関で,性同一性障害と診断され治療を受けたものは,合計1000名を超えている。これらの臨床経験の蓄積および,国内外の文献・研究・学会等から得た知見により,われわれは現在,以下のような理解を持っている。 1. 性別は幾つかの要素から構成されており,その要素の組み合わせによっては,典型 的な男性や女性に属しない多様な性別の状態がありうること。 2. 自分を男性としてないし女性として認知する性別の自己意識は,必ずしも純粋な心理的現象ではなく,脳の性分化という生物学的基礎を有していると考えられ,性同一性障害における生物学的性別は,身体と脳においては,不一致であると推測される。 上述した理解に基づき,性同一性障害を有する者の医学的性別を考えた場合,男性ないし女性のいずれかに断ずるのは容易なことではない。しかしながら,少なくとも,精神科医により性同一性障害と診断を受け,性別の自己認識が明らかにされ,適切な医療手段として性別適合手術がなされ,身体的性別を性別の自己認識に一致させた者については,性別の自己認識に従って,医学的に性別を判断するのが妥当だと考える。もし,この医学的に判断された性別と不一致なものに法的性別が判断されるなら,その判断は性同一性障害に対する医学 的理解が欠如したものと言わざるをえない。 以上より,法曹界が性同一性障害に対して十分な医学的理解を持ち,戸籍の性別訂正等の手段によって,性同一性障害を有する者の法的性別が,医学的判断と合致したものとなることをここに強く要望する。 2001年5月16日 社団法人 日本精神神経学会 理事会 |