国会議員による性同一性障害勉強会が発足

日本性科学会ニュース2000年12月号より


国会議員による性同一性障害勉強会が発足 針間克己


 1998年埼玉医科大学で我が国で公式に知られた初のSRS(性別再指定手術)を行われ、このニューズレターが送られる頃には、岡山大学においてもSRSが行われているはずである。また、学会としては、1999年に、GID(性同一性障害)研究会が発足し、2001年3月31日は第3回研究会が行われる予定となっている。
 このように性同一性障害への医学的対応は、ここ数年進展してきている。しかしながら、性同一性障害者を取り巻く社会的諸問題は、依然多く残っており、当事者達はさまざま困難に面している。
 そのようななか、日本性科学会会員でもある南野知恵子参議院議員が中心となった国会議員等による、性同一性障害勉強会が発足した。この稿では、発足までの経緯及びその後の経過を紹介する。  発端は、本年8月神戸で開催されたアジア性科学会である。8月19日に行われたシンポジウム「性転換の法と医学」に、かねてより性同一性障害の問題に関心を持たれていた南野議員は出席された。そこで、諸外国と比較し日本では性同一性障害者を取り巻く社会的対応が著しく遅れていることを知ることとなった。シンポジウム終了後、埼玉医大神経精神科教授山内俊雄氏、神戸学院大学法学部教授大島俊之氏、ノートルダム清心女子大学助教授東優子氏らからさらに詳しい話を聞き、議員立法等を含めた、社会的対応の整備を目的とした、国会議員による勉強会を発足することにした。
 第一回勉強会は9月27日に行われた。南野議員、保岡興治法務大臣、陣内孝雄元法務大臣らの国会議員、法務省、厚生省の方々、自民党職員ら20名ほどの出席者であった。筆者により、性同一性障害についての医学的説明、臨床上のデータ、戸籍問題に関する社会的反応等について、30分ほど講義を行った。講義後は、一時間ほど質疑応答が続いた。初回でもあり質問は基本的なものが主であったが、当初危惧された偏見や差別的な発言は全くなく、出席者全員が、性同一性障害の問題を真剣に考えている態度が印象的であった。
 第二回勉強会は、10月11日に行われた。出席者はあらたに馳浩衆議院議員、石渡清元参議院議員、労働省からの方が加わり、総勢25名ほどであった。勉強会は、大島俊之先生の法的問題に対する講義、当事者である虎井まさ衛さんの体験からの訴え、質疑応答と続いた。馳議員はプロレスラーとしても著名であるが、大きな声で精力的に質問をされた。「診断可能な医師の数は?」「医療体制の現状は?」「性同一性障害の成因論は?」等の、戸籍の性別訂正の将来的実務と深い質問されたり、「職場での不当差別は?」との質問では、労働省に対して、早急な対応を指示する一幕もあった。また、馳議員は環境ホルモンの勉強会も参加しており、環境ホルモンや、妊婦の流産防止剤の、脳の性分化に与える影響等のより専門的な質問もあった。石渡議員は平成10年の法務委員会で、SRSの刑事上の問題点や、戸籍上の性別変更について質問しており、その当時より、性同一性障害の問題に関心を持っていた議員である。SRSにいたる経過や実施数、「また戻してくれ」などはないのか、などSRSに関する質問や、「性転換の問題というより当事者の人権を以下に守るかという視点で議論すべきだ」等の発言をされた。陣内元法務大臣からは「きちんと法整備すれば、社会的混乱は起きないのではないか」との発言もあった。勉強会終了後は、取材に集まったマスコミ各社に対して、南野議員から「性同一性障害者の人権を守るために国会議員として何を出きるかを勉強し、彼らのお役に立ちたい」という旨の発表がなされた。
 第三回勉強会は11月28日、山内俊雄先生を講師に招き総勢25名ほどで行われた。新たに加わった国会議員は佐々木知子参議院議員。佐々木議員は、検事出身であり、検事時代にMTF(男性から女性)に関する事件を扱ったことがあり、その時以来性同一性障害に関心があったそうである。山内先生が、埼玉医大でSRSを行うにいたった経緯や残された社会的問題に関する講義を行った後、議論に移ったが、これまでになく白熱したものとなり、予定を1時間オーバーするほどであった。論点は主として労働問題と、戸籍訂正の問題であった。労働問題では、馳議員の問題提起に関して、労働省から「労働基準局に伝え、勉強会等を開き差別がないように対応したい」旨の発言があった。戸籍訂正問題では馳議員より「性同一性障害者の戸籍訂正を目的とした議員立法をしてはどうか」との提案がなされた。その前提となる性別の医学的判断については、「人間存在としての理由はジェンダーにある」との、山内先生の発言があった。
 以上勉強会の概略を報告した。読んでいただければわかるように、勉強会は数を重ねるにつれ議論が深みを増し、戸籍の性別訂正の議員立法等を視野に入れつつある。今後も、月に一回程度の割合で勉強会は開催される予定である。性同一性障害者がすみやすい世の中になるよう、議員達の活動が広がり進展していくことを期待したい。